砂色の美したいこと



 エスはベランダに置かれたデッキチェアの上で再びまどろんだ。

 復帰は実に素っ気ないものだった。ロクがマサゴの警察本部に出頭し、シスカの身柄を引き取ったただそれだけだった。ロク1人で来るようにとの但し書きがついていたし、親子水入らずで語り合いたいだろうという配慮もあって、サエやアツコ達は顔を出していない。あれだけ話題にM字額なったのに、マスコミ関係者の姿もない。ロクにとってはとてもありがたいことだったが、拍子抜けのする事態だった。何かしらの圧力が働いたのだろうロクはそう考えてこの事態を納得することにした。
「お父さんですね?」担当の婦人警官に尋ねられて「はい」と答えるのは何となく気恥ずかしかったが、反面誇らしくもあった。
 玄関でそれを見送ったロクは自分の寝室に入り、ゆったりとした部屋着に着替えて心を落ち着かせた。そしてユーティリティーで顔や手を洗いうがいを済ませてから、ダイニングキッチンに顔を出した。
 シスカはダイニングテーブルの椅子に腰掛けていた。コートは隣の椅子の背にかけられている。
「おかえり」ロクは努めて平静を装って声を出した。
「ただいま」シスカがはにかみながら答えた。
「大変だったな。疲れたろう?少し眠るか?」ロクは成立公司ようやく労いの言葉をかけることができた。
「ううん」シスカは顔を左右に振った。「大丈夫。話しがたくさんあるんだ。今、眠ってなんかいられない」シスカの声が強くなった。
「そうだな。俺も聞きたいことが山ほどある。どこかへ食事に行くか?それとも」全部を言い終わる前にシスカが言葉を被せた。
「家で食べたい。誰にも邪魔されたくないんだ」
「わかった。じゃぁ、食事の支度をしながらでいいか?材料はたっぷりと揃えてある。酒もな」ロクは最後の部分に力を込めた。
「そうしよう!何を作る?」シスカの顔に笑顔が戻ってきた。2人は並んで冷蔵庫を覗き込んだ。
 ロクはゆっくりと進行方向を見渡した。キャノピーの外はどちらを向いても見渡す限りすべてが砂漠だ。それはある意味洗練されたい世界だったが、高温、細かい砂、気まぐれな砂嵐、すべての環境は劣悪だった。だがそんな環境の中、フライトは微妙なバランスを保ちながら順調に推移している。今のところは、という但し書き付ではあるが。気温が相当に高いため空気の密度が低く、設定通りの高度を維持するためには、いつも以上に神経を使う。ロクはコパイロット席に座っているキャシーにチラリと目をやった。キャシーはそれに気づくと瞬間的に笑みを浮かべたが、またすぐに見張り業務に戻った。
 キャシーはここへ赴任してからコンビを組んだ整備士で、いっしょに飛び始めて3年になる。年齢は33、明るくて仕事熱心だが、コンビを組んだ頃はまだ経験が浅く、整備士としての技量はいまいちだった。だが意欲的で吸収が早く、まるで乾燥した頭髮護理海綿体の様に知識と経験を吸収し、ロクと組んで3年で優秀な整備士に成長した。ロクは優秀な教官でもあった。